日経新聞朝刊2026年2月15日に吉川洋・東大名誉教授が、
「物価高対策は必要だが、消費減税が適切な政策だとは思えない。生活に苦しんでいる家計があるのも事実だ。しかし、背後にある深刻な問題は格差だと考えている。
長引くコストカット型経済の下で非正規雇用が増え、賃金上昇が進まなかったことが格差の拡大につながった。前向きな変革も生まれにくい。
消費税は所得の多い人ほどたくさん納めている。総務省の家計調査で総世帯の所得を10段階に分けて見ると、最も所得の多いグループは最も少ないグループの3倍ほど食料品に支出している。減税すれば、富裕層ほど恩恵は大きい。低所得者への対策としては、富裕層に効果が大きくなる減税よりも的を絞って支援できる給付付き税額控除を導入すべきだ。
消費税は年金、医療、介護、子育て支援の社会保障4経費の財源にあてられ、再分配機能を果たしている。それでも社会保障の財源は足りず、不足分は赤字国債に頼っている。社会保障を立て直し、将来不安を取り除くことが必要ないま、富裕層も含めて多少の手取りを増やすために財源を削るのは大きな問題だ。
少子化に歯止めがかからず、子育て支援の財源を現役世代だけでなく幅広い世代で負担してもらう意義があった。所得の少ない高齢者でも、資産をもっている富裕層に消費税は払ってもらえる。
歴代の内閣が政治生命をかけ、小石を積み上げるようにして、いまの制度を築き上げてきた。1980年代後半から少子高齢化の流れがはっきりするなか、年金や医療といった社会保障の財源を確保するために消費税は導入された。
所得税中心だと現役世代に負担が偏ってしまう。自営業者などの所得を正確につかみきれない課題もあった。人は最後は消費をするわけで、幅広い国民に税を払ってもらおうという考え方から消費税は生まれた。いまの日本の風潮だと、税率を一度ゼロにしたら元に戻すのは困難だろう。消費税の原点を忘れてはならない。
足元で債務残高のGDP比が低下しているが、インフレで低下しているだけだ。年度ごとの成長率を見れば、2023年度は名目で4.7%、24年度は3.7%だった。これに対して、物価上昇の影響を除いた実質の成長率は23年度はマイナス0.0%、24年度は0.5%どまりだ。実質的には成長しておらず、単にインフレによって分母のGDPが大きくなっているというまやかしだ。
名目だけでなく実質の成長率が高まり、その結果として債務残高のGDP比が低下しているならば、上出来だといえる。現実はそうなってはいない。インフレで困っているから物価高対策が必要だと選挙で大騒ぎしたのに、インフレによってGDP比が低下してめでたしというのはありえない。
1990年代に銀行が不良債権処理で苦しんだ時にも、経済がふたたび成長すれば、融資先の経営が改善して不良債権は自然と氷解していくという楽観論があった。しかし、それは実現することはなく、90年代後半に金融危機が起こった。公的資金の注入に踏み切って、ようやく沈静化させた。財政の問題も成長頼みで改善を図ろうとするのは危うい。」
とコメントしてました。長文ですが、優れた経済学者らしい本質的な言及だと思います。
「インフレ税」は政治的には楽な道なのかもしれませんが、リスク資産に資金を回す余裕がなかったりマネーリテラリーが低い世帯(記事はこちら)に対して「フェア」ではないと私は思います。
FIRE民やマネーリテラシーの高い世帯は、経済的にインフレをうまくヘッジすると思いますが、その結果としての格差拡大は、ブーメランのように、日本での日常生活に悪影響が返ってきます。
アメリカの一部の都市ように、人々が分断され、貧富の格差が極端に拡大し、階級によって住む地域が違い、治安が悪くて立ち入れないエリアが多い日本にならない為には、どうすればよいのか。
今回の吉川洋・東大名誉教授のコメントは、長年の経験による大きな一つの見解だと思います。
