「社会保障のどこが問題かー『勤労の義務』という呪縛」(山下慎一著・ちくま新書)という本を読みました。
日本の社会保障制度の現状と歴史、課題と解決策などについて学者の視点から比較的分かりやすく書かれていて参考になりました。
面白かったのは、「すべての国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ」という日本国憲法27条1項の「勤労の義務」と、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という25条の「生存権」を、現状の社会保障制度と関連づけての分析や提言が多々あったことです。
特に、日本の社会に強く根付く「働かざる者食うべからず」の倫理観が、憲法27条1項の「勤労の義務」と絡み合い、「生存権」の社会保障である「生活保護」制度への忌避感を生んでいるという指摘はなるほどなぁ・・・と思いました。
FIREも日本では「勤労の義務」という呪縛で、資産は十分でも心理的に踏み切れない方が結構いらっしゃるのかもしれません・・・憲法における「勤労」の定義が明確ではありませんが、FIRE民も「個人投資家」という職業で勤労していると言えなくもないとは思うんですが(22条に「職業選択の自由」もありますし)・・・
最後に著者は「私は『勤労の義務』と『生存権保障』(社会保障の権利)を切り離すべきだと主張したい。『働くこと』を生存権保障と切り離すことで、『働くこと』が生活のための労苦ではなく、人間として純粋な喜びとして再構成されるかもしれない。誰もが自分にとっての天職を探求でき、そのことが創造的かつ革新的な社会をもたらすかもしれなない。あるいは、経済的価値とは異なる価値観に基づいた、人にやさしく、生きやすい社会を導くかもしれない。」と本人も「ロマンチックすぎるかもしれない」という主張で締めくくってます。
私は、最後の主張を、FIという形で自力で「生存権」を確保し、自由に生きている(ある意味、生活の為ではなく「働いている」)FIRE民へのエールでもあると受け止めました。


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